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K.Enohara

洗濯予報で用いる乾燥ポテンシャルの開発実験

気象情報というと、天気予報や防災情報のほか、生活や健康に関する情報を調べる方も多いと思います。
お天気データサイエンスのプレミアム気象データでもいくつかの指数予報を提供していますが、今回はその中の洗濯予報について、開発時のお話をします。
当時、自分でも耳にしたことがない実験を行ったのですが、プレミアム気象データへの拘りを垣間見て頂ければ幸いです。

 

生活とも天気とも切り離せない洗濯

学生時代から一人暮らしをしている私は、洗濯は「他の家事よりも絶対にやらなければならないこと」という印象を持っています。
そして、洗濯物を屋外に干せるかどうかは、その日の天気、細かく言えばその日の気象条件が密接に関わっています。
私たちの生活と、天気と、洗濯。ここに切っても切り離せない三角形があります。

 

洗濯日和と呼ぶに相応しい気象条件とは、具体的にどのような場合でしょうか。
まずは雨が降っていないという天気の条件がありますが、加えて洗濯物の乾きやすさもポイントになります。
物理学的に考えると、「衣類にを含まれる水の蒸発」という現象が起こりやすい、下記のような条件になります。

 
  • 気温が高く、湿度が低い
    • つまり、空気が乾燥している状態です。
  • 日差しが強い
    • 衣類が温められて蒸発が促されます。
  • ある程度の風が吹いている
    • 蒸発した空気が風が流される方が効率よく乾いていきます。
 

洗濯物を干して、定量的にデータを取得してみた

気象のプロとして、根拠があって信頼できる情報を発信したいと常々考えています。
ところが、前節で述べた「洗濯に適した気象条件」は定性的で、どの要素がどの割合で影響しているかは想像できません。
そこで、実際に洗濯物を干してデータを取得し、解析する実験を行いました。

 

以下のようなルールで一定期間実施しました。
・屋外の同じ場所で、同じ衣類を繰り返し干す。
・同じ条件で干し始められるよう、水が垂れない程度に十分濡れた状態の重さを衣類ごとに決める。
・1時間後に重さを量り、蒸発した水分量を計測する。
・計測後は衣類を再度濡らし直す。
・毎日9~16時に実施し、7回データを取得

 

その時の風景がこちらです。

 

ちなみに実施当初は、その日最初に干す時以外に濡らし直すことをしていませんでした。
結果、明らかに良く乾きそうな日中でも、洗濯物の水分が減ってくると時間あたりの蒸発量は小さくなっていくことが判明し、同じ条件で干し始めてデータを取得しようという方針に変更しました。
実際にやってみて分かることがあるものでした。

 

「乾燥ポテンシャル」という指標に辿り着く

実験の結果を簡単にご紹介します。
次の図は、期間中のある日の、各時間における衣類別の蒸発量です。

 

絶対量は衣類によって異なりますが、時間ごとの増減は似ていることが分かります。
そして、衣類別の蒸発量をその衣類の面積で割ると、次のようになりました。

 

実験をして、十分に濡れた状態であれば、衣類から蒸発する水分量はその衣類の面積に比例するという見解が浮かびました。
この「面積当たりの蒸発量」を、洗濯物の乾きやすさを表す定量化な指標としました。

 

ここからは気象観測データを用いた解析です。
実験場所から最も近い地点の観測データを用いて、乾きやすさと気象条件の関係を調べました。
その結果、大気飽差、日射量、風速の3要素を用いた線形重回帰を行うことで、決定係数が約0.8と非常に高い精度で洗濯物の乾きやすさを説明できることが分かりました。
※大気飽差…その空気が、あとどれだけの水蒸気を含むことができるかを示す物理量。空気が乾燥しているほど大きな値になる。

   

実際に洗濯物を干す際は雨が降るかどうか等の別要素も関係しますが、このような実験を通して「気象条件による洗濯物の乾きやすさ」に辿り着きました。
この客観的な指標は、親しみと根拠を持って発信できるように「乾燥ポテンシャル」と名付けました。
洗濯予報のデータ要素の一つとして、仕様書にも記載しています)

 

まとめ

洗濯物の乾きやすさを調べるため、実際に洗濯物を干してデータを取得する実験を行ったことを紹介しました。
一風変わった実験をプロダクトの要素に活かしていることを通して、プレミアム気象データへの拘りを感じて頂ければと思います。
洗濯予報の実験に関しては、実施する季節を増やしたり、IoTセンサーなどを用いることで、さらに改善できるかもしれません。
今回のような仕様書に記載しきれていない内容について、今後も紹介していきます。

この記事を書いた人

K.Enohara

学生時代に地球科学の魅力に惹かれ、気候変動を研究テーマに海洋物理学を専攻。
本サービスでは、気象庁データのフォーマット変換システムや、過去データ提供システムの構築、プレミアム気象データのうち天気予測データや指数予報などの開発を担当。
音楽・野球・ツーリング・将棋など比較的多趣味。気象予報士。

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