はじめに
各地方から梅雨の便りが届き、夏本番を目前に熱中症への注意が必要な季節になりました。
特に今年は、感染症への対策としてマスクを着用する生活が、熱中症のリスクを高めるのではないかと懸念されています。
気象庁は、熱中症に関する防災情報として、高温注意情報を運用しています。
この度、「高温注意情報の関東甲信地方における運用の変更について」という表題で配信資料に関する技術情報第531号が発行されました。
その内容は、2020年7月から発表が計画されている「熱中症警戒アラート(試行)」と関連しています。
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気象庁では、環境省と共同で発表する新たな熱中症予防対策情報の提供を検討しており、令和2年7月からは、先行的に関東甲信地方(1都8県)の高温注意情報の運用を変更し、令和3年度からは高温注意情報に代えて、新たな情報を全国で発表する計画です。
令和2年7月からの関東甲信地方の高温注意情報については、発表条件を日最高気温から日最高暑さ指数(WBGT)に変更し、発表条件を満たすと予想する日の前日から府県高温注意情報を発表します。これに合わせて関東甲信地方高温注意情報は廃止します。
(配信資料に関する技術情報第531号 冒頭より抜粋)
こちらの技術情報に書かれている「新たな情報」というのが「熱中症警戒アラート(試行)」ですね。
そこで今回は、高温注意情報の概要をご紹介し、その運用について
①発表条件に暑さ指数(WBGT)を導入する
②運用が段階的に変更になる
という内容を整理します。
また、暑さ指数に関する基礎的な知識もご紹介します。
※注意:データをご利用の場合は最新の技術情報をご参照ください。
【2020年6月24日更新】
配信資料に関する技術情報第531号が更新されました。
主な変更点は、熱中症警戒アラート(試行)の実施時期が2020年6月30日(火)17時から10月28日(水)5時発表分までであることが記載されました。
その他の修正点は、配信資料に関するお知らせをご確認ください。
高温注意情報の概要
対象となる気象データは、地方高温注意情報VPCT50および府県高温注意情報VPFT50です。
これらの情報は、毎年4~10月の期間に、熱中症への注意を呼びかけるものです。
技術情報の別紙より、地方高温注意情報の内容例をご紹介します。
※明記されています通り、関東甲信地方高温注意情報は廃止される予定です。詳細は次節をご確認ください。
高温注意情報は、こちらの情報の本文にもあります通り、翌日又は当日の最高気温が概ね35℃以上になることが予想される場合に発表されます。
つまり、現在は発表基準に予想最高気温が用いられています。
- 現在の発表基準
- 翌日又は当日の予想最高気温が概ね35℃以上
高温注意情報の運用変更
冒頭で紹介しました「配信資料に関する技術情報第531号」の内容を整理します。
- 高温注意情報の運用の変更点
- 発表基準が「翌日又は当日の予想される日最高暑さ指数が33以上」となる
- 情報文が増える(XMLの構造は変わらない)
今回の変更のひとつは、発表基準に暑さ指数を導入し、「予想される日最高暑さ指数が33以上」に変更するということです。
次節で暑さ指数について解説しますので、この基準についてはそちらもご参照ください。
運用変更の内容と時期を整理します。
技術情報に電文配信のスケジュールが掲載されています。
①2020年7月:関東甲信地方での運用変更
このタイミングでの運用変更は、環境省と気象庁が「熱中症警戒アラート(試行)」の発表を、関東甲信地方で実施することによります。
報道発表資料『「熱中症警戒アラート(試行)」が始まります』(気象庁ホームページへの外部リンク)
これにより、府県高温注意情報VPFT50は、関東甲信地方の都県おいて、発表基準の変更に加えて、XML電文のBody内の本文が変更になります。
XMLの構造は変わりませんが、情報量が増える点にご注意ください。
なお、関東甲信以外の地方では変更はありません。
地方高温注意情報VPCT50は、関東甲信地方の情報は廃止されます。
関東地方高温注意情報をご利用中の場合は、府県高温注意情報のうち該当する都県の高温注意情報の利用もご検討ください。
この運用変更は、2020年6月30日17時の発表分(予想対象日は7月1日)から実施されます。
②2021年4月:新規電文の運用開始
2021年からは、新たな情報を全国で発表することが計画されています。
地方高温注意情報VPCT50および府県高温注意情報VPFT50は廃止される予定ですのでご注意ください。
新しい電文の仕様は2020年秋頃に提示される予定とのことです。
暑さ指数(WBGT)とは?
2018年の猛暑が「災害級の暑さ」とメディア等で表現されたように、暑さによる健康への影響は社会問題のひとつに挙げられます。
暑さ指数(WBGT)は、熱中症を予防することを目的とした指標で、熱中症患者数を気温よりも良く説明できる(より相関がある)と言われています。
このため高温注意情報は、発表基準が日最高気温から暑さ指数に変更されることで、人の感じる暑さや熱中症の発症との関連が深まり、注意を促す情報として改善されると思います。
暑さ指数と日常生活や運動に関する指針として、21以上で注意、31以上で危険(運動は原則禁止)といった目安も定められています。
今回導入される発表基準は33以上ですので、発表時は非常に危険な状態が予想されていることを意味します。
WBGT(Wet Bulb Globe Temperature)は「湿球黒球温度」という意味で、次のように算出されます。
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WBGT=0.1×T1+0.7×T2+0.2×T3
(T1:気温、T2:湿球温度、T3:黒球温度)
湿球温度については、理科の授業で「湿球温度(湿らせたガーゼ等を巻いた温度計の温度)と乾球温度(気温)から湿度を求める」という観察をした経験はないでしょうか。
黒球温度はあまり馴染みのないものだと思いますが、日光による温まりを考慮した温度です。
これらを組み合わせることにより、屋外で人が感じる暑さに近い指標になります。
暑さ指数を定義通りに観測しようとすると、湿球温度と黒球温度の観測が必要になりますが、これらは通常の気象観測では得られません。
ただし、小野ら(2014)※では、下記のような暑さ指数の推定式が得られています。
※小野 雅司,登内 道彦(2014):通常観測気象要素を用いたWBGTの推定.日本生気象学会雑誌,50(4),147-157.
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WBGT=0.735×T+0.0374×RH+0.00292×T×RH+7.619×SR-4.557×SR2-0.0572×WS-4.064
(T:気温、RH:相対湿度、SR:全天日射量、WS:風速)
この式による推定値は観測値と極めて相関があり(決定係数が0.99以上)、上記の要素の観測データがあれば暑さ指数を推定することができます。
この推定式は、プレミアム気象データの熱中症予報の作成にも用いています(こちらは独自の予報データであり、気象庁の高温注意情報の内容や発表の有無と一致しない場合があります)。
まとめ
気象庁が発表する高温注意情報について、概要および今後の運用変更計画をご紹介しました。
暑さ指数に関する知識とあわせて理解を深めていただき、「熱中症警戒アラート(試行)」の情報をデータとして取得されたい場合は、府県高温注意情報VPFT50をご利用ください。
すでにご利用中の方は、2020年7月の関東甲信地方の運用変更にご注意ください。
この記事を書いた人
K.Enohara
学生時代に地球科学の魅力に惹かれ、気候変動を研究テーマに海洋物理学を専攻。
本サービスでは、気象庁データのフォーマット変換システムや、過去データ提供システムの構築、プレミアム気象データのうち天気予測データや指数予報などの開発を担当。
音楽・野球・ツーリング・将棋など比較的多趣味。気象予報士。