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K.Sakurai

【データ解説】線状降水帯による大雨の可能性の半日程度前予測

線状降水帯による大雨の半日程度前からの呼びかけの開始(令和4年6月1日~)

気象庁は、線状降水帯による大雨発生の可能性が高い場合に、地方予報区単位等を対象に、線状降水帯による大雨となる可能性を半日程度前から気象情報での呼びかけを開始しました。

配信資料に関するお知らせ~気象情報において線状降水帯の可能性に言及~

データは、専用の電文等ではなく、既存の気象情報(全般気象情報VPZJ50地方気象情報VPCJ50府県気象情報VPFJ50)が用いられています。

また、気象庁ホームページには、「気象・地震等の情報を扱う事業者等を対象とした講習会」の講習会資料として、動画とプレゼン資料が公開されました。 動画・プレゼン資料→気象庁ホームページ

これらの資料をデータ利用の視点で確認してみましょう。

※気象庁ホームページ「線状降水帯に関する各種情報」もご参考ください。
※本情報は執筆時点のものです。内容は随時最新情報を確認してください。

線状降水帯と顕著な大雨に関する気象情報

線状降水帯の発生メカニズムは、未解明の部分も多いですが、代表的な仕組みは以下の通りです。
  • 線状降水帯の代表的な発生メカニズム
    • 地面に近い下層を中心に大量の暖かく湿った空気の流入が持続
    • 局地的な前線や山が連なる地形などの影響で空気が持ち上がり、雲が発生
    • 大気の状態が不安定で湿潤な中で積乱雲が発達
    • 上空の風の影響で積乱雲が流されて、新たに発生した積乱雲とともに、風上から風下に向けて積乱雲が線状に並ぶ
    • 線状の降水域が数時間にわたってほぼ同じ場所で停滞
※気象庁プレゼン資料から抜粋・加筆

線状降水帯が発生すると、大雨災害の危険性が急激に高まるため、予測することは非常に重要です。
気象庁では、昨年から線状降水帯が発生したことをお知らせする「顕著な大雨に関する気象情報」を始めています。この情報も、既存の気象情報(全般気象情報VPZJ50地方気象情報VPCJ50府県気象情報VPFJ50)の見出し文に線状降水帯のキーワードを使って解説が記述されます。

線状降水帯による大雨の半日程度前からの呼びかけ

そして今年から、「顕著な大雨に関する気象情報」の発表基準(気象庁ホームページ「線状降水帯に関する各種情報」を参照)を満たすような線状降水帯による大雨の可能性がある程度高いことが予想された場合に、半日程度前から、気象情報の見出し文もしくは本文(予想雨量と併せて)に、「線状降水帯」というキーワードを使って記述されます。この記述を気象庁は呼びかけと呼んでおり、警戒レベル相当情報を補足する解説情報として発表されます。

線状降水帯による大雨の予測は難しく、精度が十分でないため、地方予報区という広い範囲の単位で発表されます。
ただ、明らかに線状降水帯による大雨が降らないと判断できる府県予報区には府県気象情報は発表されません。
また、島しょ部だけで警戒が必要と判断された場合は、その地域(「奄美地方」「伊豆諸島」「小笠原諸島」など)を限定して発表されます。

線状降水帯による大雨の半日程度前からの呼びかけのタイトルは、「大雨に関する気象情報」や「台風〇号に関する情報」などの大雨が予想される際に発表される気象情報が使われ、内容は状況に応じて適切な表現が用いられます。必ずしも同じ文章が用いられるわけではない点に注意が必要です。
定時(5時頃、11時頃、17時頃)の発表では、見出し分に加えて本文がある形式ですが、その他の時間帯では見出し文のみの短文形式になることがあります。

半日程度前というのも、線状降水帯が発生する可能性がある時間帯の概ね半日前から6時間前までです。
6時間前を切ると、地方予報区単位でおおまかな範囲で呼びかける段階ではなくなり、特別警報/警報/注意報VPWW54やキキクル(土砂災害浸水・洪水)等でより切迫した情報が活用されます。

同じ地域で線状降水帯が繰り返し発生する場合は、何度も半日前からの呼びかけはせず、「顕著な大雨に関する気象情報」が発表された後は、一連の事象が終わるまで、線状降水帯が継続していることが呼びかけられます。

線状降水帯による大雨の可能性呼びかけの精度

気象庁プレゼン資料では、予報精度が説明されています。
予測が難しいため広い範囲で予測して一部で線状降水帯が発生した場合も考慮すると適中率は約50%、地方予報区単位だと約25%だそうです。地方予報区単位では適中率は低いですが、少なくとも近隣で発生する可能性は2回に1回で、たまたま位置がずれただけの場合もあると思われます。
見逃し率は、広い範囲で予測して一部で発生した場合も、地方予報区単位も約67%で、見逃す確率の方が高いことがわかります。つまり、呼びかけがなくても線状降水帯が発生する(いきなり「顕著な大雨に関する気象情報」が発表される)ことの方が多いと認識しておく必要があります。
一方で、たとえ線状降水帯が発生しなくても、線状降水帯発生可能性の呼びかけがあったときに大雨が発生する確率は、広い範囲で予測して一部で発生するのは約80%、地方予報区単位では約60%だそうです。このため、呼びかけがあった場合は大雨が発生する可能性が高いといえます。
  • 線状降水帯による大雨の可能性呼びかけの精度の解釈
    • 位置ずれを考慮すると適中率は約50%
    • 線状降水帯は、呼びかけ無しで発生することの方が多い
    • 線状降水帯が発生しなくても、呼びかけがあれば大雨が発生することが多い
これらを踏まえると、線状降水帯による大雨の可能性呼びかけだけに頼らず、他の様々な防災気象情報と併せて活用することが重要であることがわかります。

線状降水帯による大雨の可能性予測に用いられるデータ

線状降水帯による大雨の可能性を予測するのに用いられるデータには、大雨発生確率ガイダンスがあります。大雨発生確率ガイダンスは、メソ数値予報モデル(MSM)、メソアンサンブル予報システム(MEPS)から作成されます。(MSM大雨発生確率ガイダンスはこちら
大雨発生確率ガイダンスは、3時間100mm以上の大雨発生確率、3時間150mm以上の大雨発生確率を予測したデータです。「顕著な大雨に関する気象情報」の発表基準のうち、「解析雨量(5kmメッシュ)において前3時間積算降水量が100mm以上の分布域の面積が500km2以上」かつ「領域内の前3時間積算降水量最大値が150mm以上」と関係します。大雨発生確率ガイダンスはあくまで降水量の予測のため、この大雨が線状降水帯によるものなのかはこれだけではわからないと思います。
気象庁は線状降水帯の予測方法を公開していませんが、現状理解されている発生メカニズム(上述)の気象状況を数値予報モデル等が予測しているかどうかを確認することが方法の一つと考えられます。
気象庁 平成27年度予報技術研修テキスト 第2章では、線状降水帯の発生条件として以下の6つが示されています。
  • 線状降水帯発生6条件
    • ①大きな鉛直シアー:ストームに相対的なヘリシティ(SReH)≧100m2/s2
    • ②対流の発生しやすい状態:自由対流高度<1000m
    • ③下層に大量の水蒸気供給:500m高度水蒸気流入量≧150g/m2/s
    • ④上空が湿潤で対流が抑制されない:500hPaと700hPaの湿度≧60%
    • ⑤総観スケールの上昇流がある:700hPaの400km平均上昇流≧0m/s
    • ⑥対流が中層以上まで発達しやすい:平衡高度≧3000m
※気象庁平成27年度予報技術研修テキストから抜粋、条件の意味を加筆

この条件を満たさなくても線状降水帯が発生することに注意が必要です。
気象予報士であれば、どれくらいの値の大きさや広さで分布しているかを確認して、6条件が閾値を超えていないような(気象庁から呼びかけがないような)状況における発生のわずかな兆しや半日以上前からの予測を考えるかもしれないですね。なお、6条件を利用可能なデータ(例えば、MSM-GPV等)で確認しようと思うと、①のSReH、②の自由対流高度、③の水蒸気流入量、⑤の上昇流(※注:数値予報モデルGPVに含まれるのは鉛直p速度)、⑥の平衡高度を計算する必要があります。
繰り返しになりますが、線状降水帯の発生メカニズムは未解明の部分があり、6条件を満たさなくても発生することがあります。現状では、様々な気象データを見て予測が行われていると想像すると、前節の線状降水帯による大雨の可能性呼びかけの精度の理解がより深まると思います。

この記事を書いた人

K.Sakurai

気象予報士/技術士(応用理学)/防災士 
総合気象数値計算システムSACRA、データ提供システムCOSMOS及びお天気データサイエンスの開発に一から携わる。
WRF-5kmモデル、虹予報、虹ナウキャスト、1㎞メッシュ雨雪判別予測データ、2kmメッシュ推計日射量を開発。
趣味はバドミントンと登山。

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