増加する酷暑日
近年、40℃を超えるような顕著な高温が毎年のように記録され、40℃以上の気温は珍しくなくなってきています。
こうした状況を受け、気象庁は2026年4月、最高気温が40℃以上の日を「酷暑日」と命名しました(※1)。
図1は、酷暑日を観測した延べ地点数を年別に集計したものです。

図1 酷暑日を観測した延べ地点数(2008~2025年)
近年、酷暑日が増加傾向にあることが確認でき、2018年以降は毎年観測されている状況です。
2025年は延べ30地点と過去最多となりました(※2)。
極端な高温が発生する地理的なメカニズムとして、フェーン現象や盆地地形、海岸から離れた内陸部であることやヒートアイランド現象などが指摘されています(※3, 4)。
今回は、高温が発生しやすい地域の地理的な特徴を分析し、さらにその結果をもとに、将来的に酷暑日が観測される可能性を試算しました。
高温が発生しやすい場所の地理的特徴
今回使用した気温の観測データは、地上気象観測・アメダス統計データ(旬・月別値)と地上気象観測・アメダス統計データ(10分値・時別値・日別値)です。全国的なデータが揃っている2003年から2025年までのデータを使用し、最新の2026年のデータは使用していません。
観測点ごとに、2003年~2025年の年最高気温の上位5か年の平均を、その観測点の高温の指標としました。
地理データは、NOAAの「ETOPO 2022」、およびNatural Earthの「Land/Minor Islands」を使用しました(※5, 6)。
観測点の緯度、経度、標高、海岸からの距離、周辺との標高差、周囲の山地の障壁高などを説明変数とし、GAM(一般化加法モデル)を用いて高温との関係を分析しました。周囲の山地の障壁高とは、観測点から半径5~100kmの範囲を8方位に分け、各方位の標高分布の95パーセンタイルから観測点標高を引いたものです。
分析の結果、緯度、標高、海岸からの距離、周囲の山地の最大障壁高が、特に高温との関係が強いことが分かりました。
これら4変数と高温との関係を図2に示します。
縦軸の符号が正の範囲では、その変数は気温を高くする効果があり、負の範囲では低くする効果があることを示します。
緯度は、34度付近を境に縦軸の符号が反転しており、34度以北ではより北に行くほど、気温が低くなる傾向を示しています。日本列島は、西日本では東西方向に、北日本では南北方向に伸びているため、北日本ほど緯度に応じた気温への負の効果が大きくなったと考えられます。
標高は一貫して気温を低くする方向へ働いており、これは標高が高いほど気温が低くなるイメージとも一致します。
海岸からの距離は、遠くなるほど気温が高くなる傾向を示していました。特に、海岸から22km付近までの比較的海に近いエリアで、海岸から離れることによる気温上昇効果が高いことが分かりました。逆に、海岸から22km以上離れた、ある程度内陸の地域では、海岸から離れることによる気温の上昇効果は頭打ちになっていました。
周囲の山地の最大障壁高は、高いほど気温が高くなる傾向があることが分かりました。

図2 各地理変数と気温との関係
顕著な高温が発生するメカニズムの一つに、フェーン現象があります。
フェーン現象とは、風が山を越える過程で暖かく乾燥した空気となり、風下側の地域に高温をもたらす現象です(※7)。
図2で示された、周囲の山地が高いほど気温が高くなるという結果は、フェーン現象の効果を表している可能性があります。
実際に、過去に酷暑日を観測した36日間を対象に、風上側の山地の障壁高と酷暑日の発生地点割合の関係を調べてみると、風上側の山地の障壁高が高い地点ほど、酷暑日の発生割合が高くなっていることが分かりました(図3)。

図3 風上障壁高と酷暑日発生割合との関係
2026年~2030年における酷暑日観測確率マップ
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書では、将来の社会経済の発展状況とそれに伴う温室効果ガス排出量の違いに応じて、5つの温暖化シナリオが提示されています(※8)。
今回は、最も気温上昇が抑えられた温暖化シナリオ「SSP1-1.9」のもとで、2026年~2030年の5年間で、少なくとも1回は酷暑日が観測される確率を全国的に試算しました。
試算は、前半の地理的要因の分析結果を組み合わせ、勾配ブースティングという機械学習手法を用いて行いました。
図4が、試算結果の「酷暑日観測確率マップ」です。
赤いエリアほど、2026年~2030年の5年間で少なくとも1回は酷暑日が観測される確率が高いことを示しています。

図4 2026~2030年に酷暑日を1回以上記録する確率
マップを見ると、関東~東海地方の内陸部で特に高確率エリアが広がっていることがわかります。
他にも、近畿地方や九州地方北部でも確率の高いエリアが確認できます。
北陸地方や中国地方でも、20%前後の確率が見込まれるエリアが広がっています。
同じ温暖化シナリオで、2050年まで期間を延ばした場合の酷暑日観測確率マップを図5に示します。
本州・四国・九州の多くの地域で高確率エリアが確認できます。
北海道でも、オホーツクエリアや十勝平野で酷暑日を観測する可能性があることがわかります。
逆に、沖縄地方はそれほど確率が高くないという興味深い結果も確認できました。

図5 2026~2050年に酷暑日を1回以上記録する確率
2026年~2030年における酷暑日を観測する確率の高い地点ランキング
先ほどの2026年~2030年における試算結果を、地点ごとにランキング形式でまとめました。
全国874地点のうち、上位100地点を表示しています。
表1 2026~2030年に酷暑日を1回以上記録する確率(上位100地点)
ランキング上位には、これまで酷暑日を観測した実績のある地点が並び、1位は群馬県の館林でした。
館林は2025年末時点で5回酷暑日を観測したことがある、酷暑日常連の地点です。
都道府県別に見ると、群馬県、埼玉県、岐阜県の地点が上位に多くランクインしていることがわかります。
これまで酷暑日を観測したことがない地点では、岐阜県の美濃加茂が最も上位の6位にランクインしており、5年間で酷暑日が観測される確率は56.8%という結果でした。
13位の豊田(愛知県)、25位の八幡(岐阜県)、60位の日田(大分県)は、確率試算時点(2025年末)では酷暑日を観測したことがありませんでしたが、2026年7月に初めて酷暑日を観測しています。
暑いイメージのある沖縄地方の地点は上位100位には入っておらず、沖縄地方で最も上位の那覇でも513位(0.44%)と低確率でした。北海道で最も上位の地点は、501位(0.51%)の本別(ほんべつ)で、確率は低いものの那覇よりも上位にランクインしました。
まとめ
今回は、気温の観測データと地理データを組み合わせ、高温が発生しやすい場所の地理的特徴を分析しました。
その結果、緯度や標高だけでなく、海岸からの距離や周囲の山地の高さも、高温の発生に関係していることが分かりました。
さらにその結果をもとに、将来酷暑日が観測される確率を試算すると、関東・東海地方だけでなく、本州・四国・九州の広い範囲で将来的に酷暑日が観測される可能性があることが示唆されました。
近年の高温傾向が続けば、今後も酷暑日を観測する地点数は増えていくことが予想されます。
これまで酷暑とは無縁だった地域でも、「40℃」が日常になる日が近づいているかもしれません。
参考資料・データ出典
※1 気象庁(報道発表資料):最高気温が40℃以上の日の名称を「酷暑日」に決定※2 気象庁(年別気象統計資料):40℃以上の日最高気温を観測した地点
※3 気象庁(気候・都市気候に関する調査報告書):ヒートアイランド監視報告(平成21年)
※4 福岡義隆・丸本美紀(日本地理学会学術大会ポスター発表):盆地都市の気候特性―都市的気候を強調するアメダスの問題点
※5 米国海洋大気庁・国立環境情報センター(NOAA NCEI)(全球地形・海底地形データセット):ETOPO 2022 Global Relief Model
※6 Natural Earth(縮尺1:1,000万の地理空間ベクターデータセット):1:10m Physical Vectors
※7 気象庁(気候・気象現象の解説資料):フェーン現象
※8 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)(第6次評価報告書・第1作業部会報告書・第4章):Future Global Climate: Scenario-Based Projections and Near-Term Information
この記事を書いた人
K.Sueda
学生時代は動物生態学を専攻し、北海道でフィールドワークの日々を送る。
「クマ遭遇リスクマップ」などの生物関連データや、機械学習を用いた気象予測開発に取り組む。
趣味は、バードウォッチング・登山・ランニング。

