気象庁は2025年6月30日に「GSM-GPV(アジア域)」のデータを提供開始しました。
このデータは気象庁が運用する全球数値予報モデル(Global Spectral Model;GSM)から作成されるGPVの1つです。データ領域の広さは「GSM-GPV(日本域0.1度×0.125度)」と「GSM-GPV(全球域)」の間になります。まずは日本域データよりも広い領域であるということが着眼点になると思いますが、仕様を紐解いてみると、日本域データを利用している場面で予報データをアップデートすることができると考えられます。
今回はこの新データについて解説します。
データの仕様と領域
配信資料に関する技術情報第645号では、日本域データとアジア域データの仕様の比較が表にまとめられています(表1)。
表1 仕様の比較(配信資料に関する技術情報第645号より)
まずデータの領域ですが、日本域データの「北緯20度~50度、東経120度~150度」に対して、アジア域データは「南緯10度~北緯65度、東経80度~西経170度」になります。
同技術情報で地図形式でも比較されています(図1)が、南北方向・東西方向ともに約3倍の広さになります。
また、鉛直総数も17層から22層に強化され、最も上の気圧面が100hPaから10hPaに変更されています。
水平方向の格子間隔は同じですので、格子点数は10倍ほどで、ざっくりファイルサイズの比もこの程度になります。
(個人的には、鉛直総数が強化された割にはファイルサイズが大きくなっていない、という解釈もできるかなと考えています。)
図1 データ領域の比較(配信資料に関する技術情報第645号より)
もう一点、予報時間の変更点にも注目したいです。
132時間より先の地上面の予報時間間隔は、日本域データでは3時間間隔ですが、アジア域データでは1時間間隔です。
図2 予報時間間隔のイメージ
この変更により、初期時刻から最終予報時間(264時間先)まで一定間隔の地上面の予報データを利用できるようになりました。
アジア域データのうち日本付近の領域を用いることで、現在日本域データを利用しているケースでも変更内容を活用することができます。
(なお、気圧面データは日本域データと変わらず、132時間先までは3時間間隔、それより先は6時間間隔です。)
予報値を日本域データと比較してみた
仕様の変更は前述の通りですが、アジア域データと日本域データの予報値が同じであるかを確認しておく方が、安心して新データを検討できるかと思います。
当社でも実際に比較を行っていますので、結果の一例をご紹介します。
図3 気温の予測値を比較したグラフ
こちらは、アジア域データのサンプルである2025年1月14日00UTC初期時刻のデータと、同じ初期時刻の日本域データと地上気温の予報値を比較した結果です。
大阪付近である北緯34.7度・東経135.5度の格子点をグラフ化しました。
オレンジの線がアジア域データ、青い点(点と点の間は線形補間したもの)が日本域データになりますが、見ての通り両者はほぼ同じ予報値で、差は±0.02度ほどです。
この差は数値予報モデルの計算結果ををGPVに変換する際の環境等によると推察されますが、物理量の有効桁数を考慮したら無視してよいと考えています。
なおグラフにすることで、前述の「132時間より先でも1時間間隔の予報値を利用できる」という点も分かりやすいかと思います。
132時間より先の予報では、青い点(日本域データ;3時間間隔)よりもオレンジの線(アジア域データ;1時間間隔)の方が、細かい時間変化を表現しています。
まとめ
私自身、最初は「日本国外のデータの選択肢」としてアジア域データの仕様を確認しましたが、ここまで述べた通り、日本域のデータの改善も期待できることが分かりました。
現在「GSM-GPV(日本域0.1度×0.125度)」を利用中の方も、132時間より先でも1時間間隔の予報値を利用されたい場合は、今回ご紹介した「GSM-GPV(アジア域)」を検討いただければと思います。
ただし、データ容量が大きくなってしまう点にはご注意ください。
ファイルサイズを小さくする方法として、アジア域データから日本域データと同じ領域を抽出するコマンド例を最後にご紹介します。
wgrib2 Z__C_RJTD_YYYYmmddHH0000_GSM_GPV_Ras_Gll0p1deg_Lsurf_FDaaaa-bbbb_grib2.bin -small_grib 120:150 20:50 Rjp_grib2.bin
参考
※1:配信資料に関する技術情報第645号※2:配信資料に関するお知らせ(令和7年5月28日)
この記事を書いた人
K.Enohara
学生時代に地球科学の魅力に惹かれ、気候変動を研究テーマに海洋物理学を専攻。
本サービスでは、気象庁データのフォーマット変換システムや、過去データ提供システムの構築、プレミアム気象データのうち天気予測データや指数予報などの開発を担当。
音楽・野球・ツーリング・将棋など比較的多趣味。気象予報士。



