先日の記事の通り、今年の夏に落雷が多かったことについて、落雷数のデータを作成して、各報道番組に提供しました。
データでは、関東地方で2017~2023年の7年間に比べて7月・8月の落雷が多かったことを客観的に示すことができました。
この時点の結果は速報値なものであり、8月のデータが揃ったことも踏まえて、ほかの地方も含めて改めてデータを整理してみましたので、ご紹介します。
利用したデータについても解説していますので、データを活用する際の参考にもなればと思います。
気象庁の雷観測データ
今回利用したデータは、気象庁が提供する雷観測データです。
こちらは、全国30か所に設置された雷監視ネットワーク(LIDEN:LIghtning DEtection Network system)による観測をもとにしたデータです。
データは1分毎のファイルとして提供されており、一つの放電ごとの詳細な情報が格納されています。
- 雷観測データに含まれる情報
- 時刻 ・・・ 0.01秒単位
- 緯度、経度 ・・・ 0.001度≒100m単位
- 雷多重度 ・・・ 後続雷撃の数
- 落雷種別 ・・・ 雲放電か、対地放電(落雷)か
これらのうち「雷多重度」「後続雷撃」には馴染みのない方もいるかと思いますが、配信資料に関する仕様No.13201では、以下のように説明されています。
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【雷多重度について(一部抜粋)】
対地放電での一連の放電過程(雷光)においては雷撃(対地放電)が連続して発生することがあり、最初の雷撃を第一雷撃、それに続くものを後続雷撃と呼びます。
配信するデータでは、後続雷撃の数を雷多重度としており、第一雷撃から後続雷撃を含めて一つの放電データになります。
このデータから、2017年から2024年の7月および8月について、設定した領域内の落雷数をカウントしました。
ここでは、落雷種別は対地放電(落雷)に限定して、雲放電は含めないこととしました。
また、雷多重度は考慮せずに、落雷であった放電数をシンプルにカウントすることとしました。
関東地方と近畿地方の落雷数
今回の記事では、関東地方と近畿地方における落雷数を紹介します。
関東地方は「北緯35.2~36.8度・東経138.7~140.74度」、近畿地方は「北緯33.4~34.15度・東経135.0~136.5度/北緯34.15~35.8度・東経134.4~136.5度」と、概ね各地方を覆う領域を簡易的に設定しました。
(以下の地図に、関東地方を赤色で、近畿地方を青色で示しています。)
まずは関東地方の落雷数です。
各年の落雷数について、7月は青色、8月は緑色、7月と8月の合計を赤色でグラフにしました。
2024年は7月も8月も、直近7年と比較して最多の落雷がありました。
また、7月と8月の両方とも2024年と同程度の落雷数だった年は無く、2024年の両月の合計は10万回以上と非常に多くなりました。
ただ、今回は気象庁が雷観測データの配信を開始した以降の8年分のみしか比較していないので、考察は限定的であり、来年以降も落雷数の状況を確認していければと考えています。
続いては近畿地方です。
グラフの配色は関東地方のものと同じで、縦軸のスケールも揃えています。
こちらの傾向は関東地方と異なり、2024年の7月および8月はそれぞれ2023年と同程度であり、8月については2022年の方が落雷が1万回ほど多かったです。
両月の合計は直近2年と同程度ですが、その前の期間と比べると倍程度に増加しており、こちらも来年以降の状況が気になるところです。
なぜ夏季の落雷が増加しているか
各メディアでも専門家の方により様々な解説がされていますが、この夏は気温の高さと湿った空気の流れ込みによって、雷の発生条件が揃いやすかったと考えています。
※ここで述べる内容は、一般的な気象学の知識や気象庁の資料等を踏まえた推測や仮説が含まれています。今後の課題として、水蒸気フラックスや大気安定度などのデータを解析することで、推測が正しいかどうかや、その客観的な根拠を示すことができるのではと考えています。
雷はいくつかの種類に分けられますが、夏季に発生する雷は「熱雷」が多くを占めています。
熱雷の主な発生条件は、気温が高くなって上昇気流が発生することと、雷雲の素となる水蒸気が存在することです。
近年は気候変動によって気温が上昇傾向にありますが、気象庁によりますと、今年の7月以降は全国的に顕著な高温となりました(下図(左)を参照)。
また、気象庁ホームページ(海面水温に関する診断表、予報、データ)を参照したところ、日本付近で海面水温が高い状態が続いていました。
この影響により、太平洋高気圧に沿って湿った空気が流れ込みやすかったことも相まって、落雷数が増加する条件が揃っていたと考えています。
その上で、関東地方と近畿地方で近年の傾向が異なる点について、要因の一つとして、海面水温の詳細な分布の影響を考えました。
下図(右)のように、今年の夏の太平洋側沿岸部では、西日本に比べて東日本の方が海面水温の平年差の高い状態が続いていたように見られます。
この違いが、水蒸気の流入量を通して、落雷数の地域差に影響したのではと考えました。
まとめ
雷観測データを用いて落雷数を整理した結果を紹介してきました。
今年の7~8月は関東地方での落雷が非常に多かった一方で、地域による違いも見られるなど、とても興味深い結果となりました。
今回は落雷数を地方単位・月単位で整理しましたが、条件や視点を色々と変えることも考えられます。
例えば、都道府県別に整理したり、時間帯(1時間毎や、朝・日中・夕方など)で整理することで、また違った考察ができるかもしれません。
他にも、季節を変えて冬の日本海側の雷に着目することもできますし、目的によっては「落雷のみ」でなく「雲放電も含める」という方が良い場面もあるかもしれませんね。
また、気象・気候的な解析に留まらず、人流データなどとの分析にも利用できると期待しています。
簡単な例では、「直近1時間の落雷が○○回を越えたら、△△に行く人が増える」といったことを客観的に示せるのではというアイディアが浮かびました。
このような内容は活用提案ページでも紹介できればと思いますが、今回の記事で雷観測データに興味を持っていただき、利用してみるきっかけになれば幸いです。
この記事を書いた人
K.Enohara
学生時代に地球科学の魅力に惹かれ、気候変動を研究テーマに海洋物理学を専攻。
本サービスでは、気象庁データのフォーマット変換システムや、過去データ提供システムの構築、プレミアム気象データのうち天気予測データや指数予報などの開発を担当。
音楽・野球・ツーリング・将棋など比較的多趣味。気象予報士。