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K.Sakurai

2kmメッシュ推計日射量の特性~MSM-GPV予報値との比較~

以前の記事で解説しました2kmメッシュ推計日射量について、ある疑問が浮かびました。
それは、過去データとして日射量の推定データを扱う場合に、気象庁メソ数値予報モデルGPV(MSM-GPV)や局地数値予報モデルGPV(LFM-GPV)の予報値を連ねて作成した日射量データを推定値とすると、2kmメッシュ推計日射量に比べて推定精度はどちらが良いか、というものです。
数値予報モデルの予報値は予報時間が短いとはいえ、現実の雲等の分布を正確に予報することは難しく、衛星観測の雲推定には及ばないと思われるので、2kmメッシュ推計日射量の方が良いのではと予想していました。しかしながら、意外で興味深い結果になったので、紹介したいと思います。

検証方法

使用データは、2020年8月の1か月間の2kmメッシュ推計日射量とMSM-GPV予報値、LFM-GPV予報値、地上気象観測の全天日射量です。観測データと2kmメッシュ推計日射量は10分間隔ですが、MSM-GPVは1~3時間予報、LFM-GPVは30分~1時間予報を用い、各単位時間あたりの日射量が一様であると仮定して1時間積算値に換算しました。
2kmメッシュ推計日射量、MSM-GPV予報値、LFM-GPV予報値について、それぞれ、観測値と重ねた時系列グラフを作成し、RMSE等のスコアを計算しました。

結果

以下の図は、大阪の2kmメッシュ推計日射量(赤線)と観測値(青線)の時系列グラフです(単位:MJm-2、背景色は雲型を表します)。 次の図は、同地点のMSM-GPV予報値(赤線)です。 時間間隔の違いにより、2kmメッシュ推計日射量の方が細かい変化を表現できていますが、MSM-GPV予報値も概ね良く推定できています。
3つ目は、同地点のLFM-GPV予報値(赤線)です。 LFM-GPV予報値も概ね良く推定できています。特に晴天の場合に観測値とほぼ一致しています。
このことは、全国の他の地点や他の期間でも同様でした。

RMSEは、今回の統計期間では、2kmメッシュ推計日射量は0.44MJm-2、MSM-GPV予報値は0.46MJm-2、LFM-GPV予報値は0.44MJm-2で、わずかにMSM-GPV予報値のスコアが悪かったですが、3つとも大きな差はありませんでした。
また、図等は省略しますが、日別値にも換算して同様に解析を行いました。同期間の日別値のRMSEは、2kmメッシュ推計日射量が3.4MJm-2、MSM-GPV予報値が3.7MJm-2、LFM-GPV予報値が3.2MJm-2で、こちらもわずかな差ですが、LFM-GPV予報値のスコアが最も良くなりました。

2kmメッシュ推計日射量の特性

今回の解析結果からわかったことは、以下の通りです。
  • 2kmメッシュ推計日射量とMSM-GPV予報値、LFM-GPV予報値の比較
    • 時別値の推定精度は、MSM-GPV予報値よりはわずかに良いが、LFM-GPV予報値とは変わらない
    • 日別値の推定精度は、LFM-GPV予報値の方が良い
当初想像していた数値予報モデルの予報誤差は、2kmメッシュ推計日射量の推定誤差に比べて大きくなかったことになります。MSM-GPV予報値やLFM-GPV予報値は、日別値や過去データとして利用する分には十分な推定精度がありそうです。

もちろん、推定精度は大きく変わらないため、2kmメッシュ推計日射量は、10分間隔という高頻度な推定が必要な場合や、リアルタイムに推定値を得る必要がある場合に、その真価を発揮します。
  • 2kmメッシュ推計日射量の特性(以下の場合により有効に活用できる)
    • 高頻度な推定が必要な場合
    • リアルタイムにデータが必要な場合

2kmメッシュ推計日射量は、高分解能雲情報を用いた雲の遮蔽率推定手法に近似があるため、計算は高速ですが、推定精度については改善の余地があるかもしれません。 MSM-GPVやLFM-GPVは、日射量以外の要素も含まれるのでデータ容量が大きく、抽出や時間の扱いに関する処理が必要になってきます。 それぞれのデータ特性、保管コスト、作業の手間を考えつつ、利用方法に見合ったデータを選択した方が良いでしょう。

※LFM-GPVデータは、「気象庁過去データの利用環境(令和2年度)」から取得・利用しました。

この記事を書いた人

K.Sakurai

気象予報士/技術士(応用理学)/防災士 
総合気象数値計算システムSACRA、データ提供システムCOSMOS及びお天気データサイエンスの開発に一から携わる。
WRF-5kmモデル、虹予報、虹ナウキャスト、1㎞メッシュ雨雪判別予測データ、2kmメッシュ推計日射量を開発。
趣味はバドミントンと登山。

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