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K.Sakurai

2023年6月2日の台風第2号に伴う線状降水帯の事例解析

2023年6月2日、台風第2号の接近に伴い線状降水帯が発生し、大雨による被害や交通機関等への大きな影響がありました。
本記事では、すぐに利用可能な気象データを用いて、線状降水帯の特徴や予測の状況について事例解析した結果を紹介します。
※本記事の時刻は、明記していない場合は日本時間を表します。
※事例解析は速報的に行ったものです。また、利用するデータによって結果が異なる場合があります。本記事を引用される場合は事前にご連絡ください。

線状降水帯の予測と発生状況

気象庁は前日(2023年6月1日16時頃)の段階で発表した地方気象情報VPCJ50で、中国地方と四国地方で「線状降水帯が発生して大雨災害の危険度が急激に高まる可能性がある」と呼び掛けていました。
    大雨に関する中国地方気象情報
    2023年06月01日16時00分
    広島地方気象台 発表
    中国地方では、2日午前中から午後にかけて、線状降水帯が発生して大雨災害の危険度が急激に高まる可能性があります。1日夜のはじめ頃から2日夜遅くにかけて広い範囲で大雨となる見込みです。土砂災害、浸水害、河川の増水や氾濫に警戒してください。
    大雨に関する四国地方気象情報
    2023年06月01日16時01分
    高松地方気象台 発表
    四国地方では、2日午前中から夜にかけて、線状降水帯が発生して大雨災害の危険度が急激に高まる可能性があります。土砂災害や低い土地の浸水、河川の増水や氾濫に警戒してください。
また、当日早朝(6月2日5時~6時頃)のタイミングでは、同じく地方気象情報VPCJ50で、近畿地方と東海地方についても線状降水帯の発生可能性を呼び掛けていました。
    大雨と高波に関する東海地方気象情報
    2023年06月02日05時13分
    名古屋地方気象台 発表
    東海地方では、2日午後から3日午前中にかけて、線状降水帯が発生して大雨災害の危険度が急激に高まる可能性があります。また、3日にかけて、海上はうねりを伴ってしける見込みです。土砂災害、低い土地の浸水、河川の増水や氾濫に警戒し、うねりを伴った高波に注意・警戒してください。
    大雨と高波に関する近畿地方気象情報
    2023年06月02日05時51分
    大阪管区気象台 訂正
    近畿地方では、2日午前中から夜にかけて線状降水帯が発生して大雨災害の危険度が急激に高まる可能性があります。また、近畿地方では、2日昼前から夜遅くにかけて、局地的に雷を伴った非常に激しい雨が降る見込みです。2日朝から3日明け方にかけて、土砂災害や低い土地の浸水、河川の増水や氾濫に警戒してください。
その後、以下の表に示す時刻と地域に、顕著な大雨に関する気象情報(全般気象情報VPZJ50地方気象情報VPCJ50府県気象情報VPFJ50)が発表されました。
発表時刻発表地域
2023年06月02日08時10分高知県
2023年06月02日11時22分高知県
2023年06月02日12時01分和歌山県
2023年06月02日13時10分奈良県、和歌山県
2023年06月02日15時40分三重県
2023年06月02日15時51分愛知県、三重県
2023年06月02日16時10分静岡県、愛知県
2023年06月02日19時51分静岡県、愛知県
地方気象情報VPCJ50で事前(数時間~半日以上前)に線状降水帯による大雨の可能性が呼びかけられていた四国・近畿・東海の各地方で顕著な大雨に関する気象情報の発表がありました。
一方、6月1日16時頃の段階で線状降水帯による大雨の可能性を呼びかけられていた中国地方では顕著な大雨に関する気象情報は発表されませんでした。
(なお、線状降水帯による大雨の可能性の短時間予測については、こちらの記事で詳しく解説しています。)

下の図は、解析雨量を用いて計算した6月2日00:00UTC~24:00UTCの積算降水量の分布図に、実況の線状降水帯の雨域の楕円を重ねたものです。
線状降水帯は四国・近畿・東海の各地方太平洋沿岸で発生し、線状降水帯の発生した地域で降水量が多くなっていました。
図は省略しますが、レーダー降水強度を見ると、6月2日6時頃から太平洋沿岸地域で雨域がまとまり始め、四国地方から線状の雨域が伸びて、近畿、東海地方へと東進していきます。中国地方では雨雲はかかりましたが、太平洋沿岸地域ほどの強い雨域にはなりませんでした。

数値予報モデルGPVの降水予測

次の図は、MSM-GPVの前1時間降水量(と海面更生気圧)の分布図で、6月1日00UTCを初期時刻とする24時間予報値です。
これを見ると、山口県から広島県にかけて、強い降水域が伸びていることがわかります。
一方で、MSM-GPVの6月1日18UTCを初期時刻とする6時間予報値を見ると、四国地方を中心とした太平洋沿岸地域で降水量が多くなっていました。
MSM-GPVでは、6月1日00UTCの段階では、強い降水域を予測している地域は実況に比べて北にずれており、(図は省略しますが)時間の経過とともに強い降水域を予測する地域が南に移動して、ほぼ直前である6月1日18UTCでは実況と概ね同じ地域で降水量が多くなると予測されていました。

LFM-GPVでは、帯状の降水域はモデル内で表現されていますが、6月1日18UTC初期値でも強い降水域の北への位置ずれは残ったままで、台風が通り過ぎていくまでその特徴に変化はありませんでした。下図はLFM-GPVの6月1日18UTCを初期時刻とする前1時間降水量の6時間予報値です。

数値予報モデルGPVの降水予測は、MSM-GPVとLFM-GPVで強い降水域の位置の特徴が異なっており、MSM-GPVの方が、線状降水帯が発生する6時間程度前から実況と整合的な太平洋沿岸地域での強い降水域を予測していました。

このような数値予報モデルの降水予測の特徴から、中国地方でも6月1日の段階で線状降水帯による大雨の可能性が呼びかけられていたのだと推察できます。直前の初期値のMSM-GPVの予測精度が良いのは、実況がわかっている今だから言えることであって、いつどこで線状降水帯が発生するのかを予測するのは非常に難しいといえます。

線状降水帯発生6条件の状況

気象庁 平成27年度予報技術研修テキスト 第2章によると、線状降水帯の発生条件として次の6つが示されています。
  • 線状降水帯発生6条件
    • ①大きな鉛直シアー:ストームに相対的なヘリシティ(SReH)≧100m2/s2
    • ②対流の発生しやすい状態:自由対流高度<1000m
    • ③下層に大量の水蒸気供給:500m高度水蒸気流入量≧150g/m2/s
    • ④上空が湿潤で対流が抑制されない:500hPaと700hPaの湿度≧60%
    • ⑤総観スケールの上昇流がある:700hPaの400km平均上昇流≧0m/s
    • ⑥対流が中層以上まで発達しやすい:平衡高度≧3000m
※気象庁平成27年度予報技術研修テキストから抜粋、条件の意味を加筆

これらの条件のうち、⑤以外は、MSM-GPV大気の熱力学に関する物理量MSM-GPV大気の安定度に関するパラメータMSM-GPV風の鉛直シアーに関するパラメータを利用することができます。(ただし、厳密には、気象庁の示す条件で使用されるパラメータ等の計算方法と異なる場合があります。)
実況の強い降水域と対応の良かった6月1日18UTCを初期時刻とする6時間予報値を見てみました。
下図は、③に相当する950hPaの水蒸気流入量です。
四国沖から紀伊半島沖にかけて大きな水蒸気流入量が見られます。
台風の東側の南風によって、暖かく湿った空気が流入していました。また、台風の北側には寒気があり、その冷たい空気との境界で風の強い収束がありました(別途、水蒸気フラックス収束の分布で確認。図は省略。)。
さらに、下図は、①に相当する0-1kmSReHです。
紀伊水道から少し沖にかけてSReHが大きくなっていて、大量の水蒸気流入があるところと風の鉛直シアーの大きいところが一致していることがわかります。

まとめ

2023年6月2日の台風第2号に伴う線状降水帯について、利用可能なデータを用いて事例解析を行いました。
線状降水帯は、四国・近畿・東海地方の太平洋沿岸地域で発生しました。
MSM-GPVでは、前日(6月1日00UTC初期値)の段階では、強い降水域の位置は北にずれており、当日(6月1日18UTC初期値)になってから強い降水域の位置は実況に近づいていました。
LFM-GPVは、帯状の降水域は予測されていたものの、実況で線状降水帯が発生していた時刻を過ぎても強い降水域の位置は北にずれたままでした。
気象庁は、数時間から半日程度前に線状降水帯をキーワードとした気象情報を発表しており、対象地域は数値予報モデルGPVの結果と整合していました。
線状降水帯の発生した地域では、下層における大量の水蒸気流入と風の大きな鉛直シアーがMSM-GPVによって遅くとも6時間前には予測されていました。また、下層の水蒸気収束も顕著でした。

数値予報モデルGPVの初期値が変わると強い降水域の位置が変化していたことから、線状降水帯の発生位置の予測はかなり難しかったと思われます。
今後の課題として、決定論的予報では数値予報の結果にどれくらい信頼性があるのかわからないため、MEPS-GPVの結果も活用すれば、メソモデルの予報が実況に合ってきていることを把握できたかもしれないと考えています。ただ、MEPS-GPVには降水量要素は含まれていますが、利用できる気圧面が限られているため、線状降水帯発生6条件の各種パラメータを計算することができません。このように、利用できるデータについても課題があります。

今回の解析結果は、予報作成の際の数値予報モデルGPVの特性に関するナレッジデータベースに役立てられればと思います。

この記事を書いた人

K.Sakurai

気象予報士/技術士(応用理学)/防災士 
総合気象数値計算システムSACRA、データ提供システムCOSMOS及びお天気データサイエンスの開発に一から携わる。
WRF-5kmモデル、虹予報、虹ナウキャスト、1㎞メッシュ雨雪判別予測データ、2kmメッシュ推計日射量を開発。
趣味はバドミントンと登山。

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