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気象庁は、「線状降水帯」というキーワードを使って気象状況を解説する「顕著な大雨に関する気象情報」を運用しています。
この「顕著な大雨に関する気象情報」ですが、2023年5月に運用変更があり、これまでより最大30分程度早く発表されるようになりました。
今回は、線状降水帯関連の気象情報について、この変更点を含めた運用を整理します。
また、実際に発表された「顕著な大雨に関する気象情報」では、予測技術の活用によって発表が早められたケースであっても、予測に基づく情報であることには言及されませんでした。このケースに該当する2023年6月2日の発表事例を解説した上で、顕著な大雨に関する気象情報に対する心構えについても考えてみたいと思います。
※本情報は執筆時点のものです。内容は随時最新情報を確認してください。
※この記事における日時は、いずれも日本時間(JST)です。
(1)と(2)が「顕著な大雨に関する気象情報」であり、(3)は正式な情報名ではありませんが「線状降水帯の半日前予測情報」と呼べるかと思います。
これらの情報は、専用の電文ではなく、全般気象情報VPZJ50、地方気象情報VPCJ50、府県気象情報VPFJ50の情報の一つとして運用されています。
※(3)については以前の記事で解説しています。線状降水帯のメカニズムも解説していますので、理解を深めたい方は併せてご参照ください。
顕著な大雨に関する気象情報の発表基準は、気象庁ホームページ「線状降水帯に関する各種情報」でも解説されています。
2023年5月までは、1~3の判定には実況の降水量が、4の判定にはキキクルの実況値が、それぞれ用いられていました。
2023年5月の運用変更は、いずれも短時間(30分先まで)の予測が活用されるようになることで、これまでより早く発表される可能性がある、というものです。
(関連記事:2023年6月2日の台風第2号に伴う線状降水帯の事例解析)
このうち、午前8時10分に高知県を対象に発表された顕著な大雨に関する気象情報について着目しました。
この情報ですが、図形式気象情報や線状降水帯の雨域(シェープファイル形式)を確認すると、2023年5月の運用変更(前述の(2))が該当することが分かりました。
前後の時刻の線状降水帯の雨域(シェープファイル形式)から、線状降水帯(※)の発生状況を確認しました。
※以降この記事では便宜上、顕著な大雨に関する気象情報の発表基準を満たしたものを「線状降水帯」と呼ぶことにします。
高知県付近で線状降水帯が解析されていた(実況で発生していた)か、あるいは30分先までに発生すると予測されていたかを表にすると、以下のようになります。
7時50分時点では、線状降水帯は解析されておらず、30分先までは発生も予測されていませんでした。
8時00分になると、依然として実況では解析はされていませんが、20分後および30分後に発生が予測されました。8時00分の解析が完了した時刻は8時10分(解析時刻の約10分後)でした。これらのことから、顕著な大雨に関する気象情報の発表時刻が8時10分であったことを説明できます。
その後8時10分には、線状降水帯が実況で解析されました。
もし顕著な大雨に関する気象情報の発表基準が「(1)実況に基づく」だった場合、発表時刻は8時22分頃(8時10分の解析が完了した時刻)となった可能性があります。
つまりこの事例においては、2023年5月の運用変更により、発表が10分程度早まったことが分かります。
ただ、この8時10分発表の情報についてひとつ気付いたのですが、『○分後に「顕著な大雨に関する気象情報」の基準に達することが予想されます』といった、予測であることを示す表現は使われていませんでした。
先ほど事例を紹介しましたが、実況では発表基準を満たしていない場合でも、そのことが分かる表現は用いられていませんでした。
その理由ですが、「まだ発生していない」「本当に発生したら避難しよう」という思考が働かないようにするためではないかと解釈しました。
短時間予測によって顕著な大雨に関する気象情報が発表された時点で、すでに災害の可能性が非常に高まっていることを意味します。
もし情報を受け取った人に「予測に基づく発表」ということが伝わると、その後実際に基準に達するかどうかが気になってしまうかもしれません。
しかし、前述の情報発表基準で言えば「降水量が数mmだけ基準に満たない場合」や「降水域が細長くなく、線状とは言い難い場合」に、その僅かな違いによって災害発生の可能性が低くなるわけではないことは、言うまでもありません。
「(数十分とはいえ)予測だからまだ大丈夫」というミスリードにならないような表現が用いられていることに、この運用変更のメッセージが込められているのではと考えています。
情報を受け取る側も伝える側も、発表基準を満たすかどうかに囚われすぎず、線状降水帯はあくまで災害の要因の1つにすぎないと意識することが、命を守る行動に繋がる一歩ではないでしょうか。
出水期を迎えた中で、皆さんが防災情報の意義を考え、自身の行動を見つめ直すきっかけになれば嬉しいです。
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大雨による災害発生の危険度が急激に高まっている中で、線状の降水帯により非常に激しい雨が同じ場所で降り続いている状況を「線状降水帯」というキーワードを使って解説を行います。
(2021年5月24日の配信資料に関するお知らせより)
この「顕著な大雨に関する気象情報」ですが、2023年5月に運用変更があり、これまでより最大30分程度早く発表されるようになりました。
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「顕著な大雨に関する気象情報」について、予測技術を活用し、これまでより最大30分程度早く発表する運用を2023年5月25日(木)13時から開始します。
(2023年5月12日の配信資料に関するお知らせより)
今回は、線状降水帯関連の気象情報について、この変更点を含めた運用を整理します。
また、実際に発表された「顕著な大雨に関する気象情報」では、予測技術の活用によって発表が早められたケースであっても、予測に基づく情報であることには言及されませんでした。このケースに該当する2023年6月2日の発表事例を解説した上で、顕著な大雨に関する気象情報に対する心構えについても考えてみたいと思います。
※本情報は執筆時点のものです。内容は随時最新情報を確認してください。
※この記事における日時は、いずれも日本時間(JST)です。
線状降水帯関連の気象情報の運用
まずは、顕著な大雨に関する気象情報を含めた、線状降水帯に関連する気象情報の運用を整理してみたいと思います。- (1)実況(2021年6月~):基準を満たした際に「顕著な大雨に関する気象情報」が発表されます。
- (2)短時間予測(2023年5月~):「顕著な大雨に関する気象情報」について、実況より最大30分程度早く発表されます。
- (3)半日前予測(2022年6月~):線状降水帯による大雨の可能性が高い場合に、半日程度前から地方予報区単位等で線状降水帯の可能性が呼び掛けられます。
(1)と(2)が「顕著な大雨に関する気象情報」であり、(3)は正式な情報名ではありませんが「線状降水帯の半日前予測情報」と呼べるかと思います。
これらの情報は、専用の電文ではなく、全般気象情報VPZJ50、地方気象情報VPCJ50、府県気象情報VPFJ50の情報の一つとして運用されています。
※(3)については以前の記事で解説しています。線状降水帯のメカニズムも解説していますので、理解を深めたい方は併せてご参照ください。
顕著な大雨に関する気象情報の発表基準は、気象庁ホームページ「線状降水帯に関する各種情報」でも解説されています。
- 以下の基準をすべて満たす場合に発表
- 1. 前3時間積算降水量(5kmメッシュ)が100mm以上の分布域の面積が500km2以上
- 2. 1.の形状が線状(長軸・短軸比2.5以上)
- 3. 1.の領域内の前3時間積算降水量最大値が150mm以上
- 4. 1.の領域内の土砂キキクル(大雨警報(土砂災害)の危険度分布)において土砂災害警戒情報の基準を超過(かつ大雨特別警報の土壌雨量指数基準値への到達割合8割以上)又は洪水キキクル(洪水警報の危険度分布)において警報基準を大きく超過した基準を超過
2023年5月までは、1~3の判定には実況の降水量が、4の判定にはキキクルの実況値が、それぞれ用いられていました。
2023年5月の運用変更は、いずれも短時間(30分先まで)の予測が活用されるようになることで、これまでより早く発表される可能性がある、というものです。
2023年6月2日の発表事例
この日は日本の南を台風が進んだ影響で太平洋側を中心に大雨となり、前日から線状降水帯の半日前予測情報が、当日はいくつかの地域で顕著な大雨に関する気象情報が発表されました。(関連記事:2023年6月2日の台風第2号に伴う線状降水帯の事例解析)
このうち、午前8時10分に高知県を対象に発表された顕著な大雨に関する気象情報について着目しました。
- 顕著な大雨に関する全般気象情報(2023年6月2日 08:10発表)
- 高知県では、線状降水帯による非常に激しい雨が同じ場所で降り続いています。命に危険が及ぶ土砂災害や洪水による災害発生の危険度が急激に高まっています。
この情報ですが、図形式気象情報や線状降水帯の雨域(シェープファイル形式)を確認すると、2023年5月の運用変更(前述の(2))が該当することが分かりました。
前後の時刻の線状降水帯の雨域(シェープファイル形式)から、線状降水帯(※)の発生状況を確認しました。
※以降この記事では便宜上、顕著な大雨に関する気象情報の発表基準を満たしたものを「線状降水帯」と呼ぶことにします。
高知県付近で線状降水帯が解析されていた(実況で発生していた)か、あるいは30分先までに発生すると予測されていたかを表にすると、以下のようになります。
解析時刻 | 解析完了時刻 | 発生:実況 | 発生:10分後 | 発生:20分後 | 発生:30分後 |
---|---|---|---|---|---|
7時50分 | 8時00分頃 | × | × | × | × |
8時00分 | 8時10分頃 | × | × | ○ | ○ |
8時10分 | 8時22分頃 | ○ | ○ | ○ | ○ |
7時50分時点では、線状降水帯は解析されておらず、30分先までは発生も予測されていませんでした。
8時00分になると、依然として実況では解析はされていませんが、20分後および30分後に発生が予測されました。8時00分の解析が完了した時刻は8時10分(解析時刻の約10分後)でした。これらのことから、顕著な大雨に関する気象情報の発表時刻が8時10分であったことを説明できます。
その後8時10分には、線状降水帯が実況で解析されました。
もし顕著な大雨に関する気象情報の発表基準が「(1)実況に基づく」だった場合、発表時刻は8時22分頃(8時10分の解析が完了した時刻)となった可能性があります。
つまりこの事例においては、2023年5月の運用変更により、発表が10分程度早まったことが分かります。
ただ、この8時10分発表の情報についてひとつ気付いたのですが、『○分後に「顕著な大雨に関する気象情報」の基準に達することが予想されます』といった、予測であることを示す表現は使われていませんでした。
顕著な大雨に関する気象情報にどう接したらよいか
2023年5月の運用変更について、情報の発表を早める目的は「命を守る行動を、少しでも早く取ってもらうこと」にあると考えています。先ほど事例を紹介しましたが、実況では発表基準を満たしていない場合でも、そのことが分かる表現は用いられていませんでした。
その理由ですが、「まだ発生していない」「本当に発生したら避難しよう」という思考が働かないようにするためではないかと解釈しました。
短時間予測によって顕著な大雨に関する気象情報が発表された時点で、すでに災害の可能性が非常に高まっていることを意味します。
もし情報を受け取った人に「予測に基づく発表」ということが伝わると、その後実際に基準に達するかどうかが気になってしまうかもしれません。
しかし、前述の情報発表基準で言えば「降水量が数mmだけ基準に満たない場合」や「降水域が細長くなく、線状とは言い難い場合」に、その僅かな違いによって災害発生の可能性が低くなるわけではないことは、言うまでもありません。
「(数十分とはいえ)予測だからまだ大丈夫」というミスリードにならないような表現が用いられていることに、この運用変更のメッセージが込められているのではと考えています。
情報を受け取る側も伝える側も、発表基準を満たすかどうかに囚われすぎず、線状降水帯はあくまで災害の要因の1つにすぎないと意識することが、命を守る行動に繋がる一歩ではないでしょうか。
まとめ
線状降水帯関連の気象情報について、事例を含めて解説しました。出水期を迎えた中で、皆さんが防災情報の意義を考え、自身の行動を見つめ直すきっかけになれば嬉しいです。
この記事を書いた人
K.Enohara
学生時代に地球科学の魅力に惹かれ、気候変動を研究テーマに海洋物理学を専攻。
本サービスでは、気象庁データのフォーマット変換システムや、過去データ提供システムの構築、プレミアム気象データのうち天気予測データや指数予報などの開発を担当。
音楽・野球・ツーリング・将棋など比較的多趣味。気象予報士。