OTENKI Data Science

TechBlog

K.Sakurai

【データ解説】気象庁メソ数値予報モデルGPVモデル面データの取得・分布図作成・活用方法について

メソ数値予報モデルGPVモデル面データについて

気象庁は、2024年3月5日00UTC初期値からメソ数値予報モデルGPVモデル面データを気象庁クラウドから提供開始しました。※1※2
モデル面とは、数値予報の計算を実際に行っている格子を構成する、鉛直方向に重なる各面のことで、従来のMSM-GPVに比べて水平方向・鉛直方向に解像度が高くなっています。
開始当初は地上及び最下層から39層(標高0mの格子で上空約5,000mに相当する)まででしたが、第40層から第96層(モデル面最上層)が2025年3月27日00UTC初期値から追加されています。※3※4
予報時間は1時間間隔で、上空については、従来のMSM-GPVの気圧面よりも時間間隔が細かくなっています。
格子系はランベルト正角円錐図法で投影した地図上に配置した正方格子で、水平方向817×661格子の領域が、北緯30度・東経140度に、左から565番目・上から445番目の格子が位置しています。(図1)
図1 MSMモデル面データの領域(配信資料に関する技術情報第619号より)

含まれる気象要素には、従来のMSM-GPVと異なるものがあります。地上物理量に比湿、降水量4要素(雨、雪、あられ、雲氷)、モデル面物理量に全密度、比湿6要素(水蒸気、雨、雪、あられ、雲水、雲氷)が含まれています。また、投影法の違いのため、格子点の緯度・経度の要素が含まれています。
MSMのモデル面の鉛直座標は、下層ほど格子間隔が狭く、地形に沿い、上層になるにつれて地形の影響を軽減し、徐々に水平になるように配置されています。(図2)
図2 中央に凸の地形がある場合の鉛直座標の模式図(配信資料に関する技術情報第619号より)

フォーマットはGRIB2で、複合圧縮及び空間差分圧縮が使用されています。このためファイルサイズは気象場により変動しますが、1日あたりの合計は約129.4GBという膨大なデータ量です。
詳細な仕様は配信資料に関する仕様 No.12603をご参照ください。※5

保存期間

現状では、MSMモデル面データは、データ量が大きすぎるが故に、気象庁クラウドでは半年以前のデータは削除されて利用できなくなります。一方で、気象庁の数値予報モデルの中でも利用しやすいMSMの出力データが、高解像度で、詳細な要素を利用できるのはとても価値があることです。利用にあたって検証するにしても、できるだけ長い期間のデータがある方が望ましいと思います。このため、当社では、削除されて利用できなくなるデータも含めて、当面の間、アーカイブすることにしました。
保存期間は2024年3月5日00UTCの運用開始以降です。
通常、当社では気象データをクラウドストレージに保存しているのですが、本データはデータ量が大きすぎるため、物理ストレージに保存しています。このため、お天気データサイエンスからダウンロードすることができません。
MSMモデル面データの利用をご希望の方はお問い合わせからご連絡ください。なお、アーカイブは、この記事の執筆時点で行っていますが、今後継続するかは利用状況や気象庁クラウドでの保存期間次第になります。お問い合わせの際は、保有状況の確認のため、ご希望の期間をお知らせください。

分布図

図3は、2025年4月12日21UTCの東西風速成分の3時間予報値で、左がMSMモデル面データの地上500m付近(第12層)、右が従来のMSM-GPVの950hPa面です。
図3 2025年4月12日21UTCの東西風速成分の3時間予報値(左:MSMモデル面データの地上500m付近(第12層)、右:従来MSM-GPVの950hPa面)

モデル面データと従来GPVで、分布が概ね一致しているのは当然のことですが、モデル面データの方が領域が少し広く、下層のため、(朝鮮半島あたりなどに)地形の影響が細かく出現しているのが見て取れます。
図4は、図3と同時刻の近畿地方や四国地方に拡大した風ベクトルの分布図です。従来GPVでは、陸上では標高の高いところで風が弱くなっているように見えますが、これは950hPaの気圧面に鉛直内挿される際に、高度が標高より低い場合はモデル面最下層の値が入っているためと思われます。※6
モデル面データの方は、地形に沿った面(第12層)を描いているため、陸上でも風の分布が連続的になっていて、(空気がモデル面に沿って移動するわけではないことに注意が必要ですが)水平風の収束を捉えやすいかと思います。
図4 2025年4月12日21UTCの風の3時間予報値(左:MSMモデル面データの地上500m付近(第12層)、右:従来MSM-GPVの950hPa面、どちらも東西南北に1格子毎に間引いている)

このように、データの鉛直座標が異なることで、気象場の見え方が変わってきます。
分布図に限らず、時系列グラフでも同様ですが、表示したデータ(値)がどのような意味を持つのかを説明するには、どのようにそのデータが作成されているかを理解しておくことが重要だと思います。

図3および図4の作図には、GrADSを利用しました。
MSMモデル面データは、ランベルト正角円錐図法なので、作図するときは投影法の設定が必要になります。
以下はctlファイルの設定例です。
    pdef 817 661 lccr 30.0 140.0 565 217 30.000000 60.000000 140.000000 5000.000000 5000.000000
    xdef 886 linear 102.008758 0.0633365272190143
    ydef 741 linear 16.821399 0.0454545454545455

データ特性と活用方法

従来GPVとは異なる特性を活かした、MSMモデル面データの活用方法を考えてみます。

まずは解像度が従来GPVよりも高解像度という点です。
地上面の解像度は従来GPVとあまり変わらないですが、上空のデータがその恩恵を受けることができます。
従来GPVの気圧面データの水平格子間隔は約10kmですが、MSMモデル面は5kmです。
また、鉛直方向の解像度は、高度200mまでに地面を除いて6面ある(※1)とのことで、従来GPVでは1000hPaの次が975Paですから(高度200mまでに1面か2面、標高が高ければ存在しない場合もある)、下層でとても細かくなります。
より高解像度である方が、(精度よく当たるかどうかは別として)小さなスケールの現象を捉えることができるようになります。
また、モデル面は地面から上空に必ず40層あり、特に標高の高い場所でも「同じ層数でデータが存在する」ことは、陸上のどの格子点でも鉛直方向に均一にデータが揃うことになります。
具体的な活用方法は様々だと思いますが、このような特性を活かせると良いと思います。

もう一つは従来GPVにはない要素でしょうか。
地上物理量に含まれている降水量は、4要素(雨、雪、あられ、雲氷)あります。一般的な天気予報を想定してこの4要素を利用することは、どれくらいの予報精度なのかは不明ですが、MSMが直接予測する降水の種別を利用することができます。
モデル面物理量の比湿にも6要素(水蒸気、雨、雪、あられ、雲水、雲氷)が含まれています。雲(雨・雪雲、積乱雲、上層雲、下層雲、霧・・・)の分布の予測データとして利用できそうですが、5kmの解像度でどれくらい表現できるのかは検証してみる必要がありそうです。

従来GPVにはない要素の一つに、鉛直速度(上昇流)があります。従来GPVに含まれる上昇流は鉛直p速度(Pa/s)ですが、モデル面データの上昇流は鉛直方向の速度(m/s)で表されます。
この上昇流と、鉛直座標が地面からの高さになっていることで、線状降水帯6条件(※7)を計算することができるようになると思います。
従来GPVでは、以前の記事(【データ解説】線状降水帯による大雨の可能性の半日程度前予測2023年6月2日の台風第2号に伴う線状降水帯の事例解析)で解説した通り、気象庁が定義する6条件のストームに相対的なヘリシティ(SReH)、自由対流高度、500m高度水蒸気流入量、平均上昇流、平衡高度と同じ入力データを用いることができませんでした。実際には細かな計算方法の違いによる差は生じると思いますが、モデル面データを用いればより正確に計算することが可能と思います。
これにより、線状降水帯6条件の空間的な分布を利用することができるようになり、豪雨関連防災の高度化に役立つかもしれません。

参考

※1:配信資料に関する技術情報 第619号
※2:令和6年2月5日付 配信資料に関するお知らせ
※3:配信資料に関する技術情報 第638号
※4:令和7年2月25日付 配信資料に関するお知らせ
※5:配信資料に関する仕様 No.12603
※6:数値予報解説資料集(令和6年度) 4.5 プロダクトの物理量の算出手法
※7:気象庁 平成27年度予報技術研修テキスト 第2章

この記事を書いた人

K.Sakurai

気象予報士/技術士(応用理学)/防災士 
総合気象数値計算システムSACRA、データ提供システムCOSMOS及びお天気データサイエンスの開発に一から携わる。
WRF-5kmモデル、虹予報、虹ナウキャスト、1㎞メッシュ雨雪判別予測データ、2kmメッシュ推計日射量を開発。
趣味はバドミントンと登山。

前の記事へ 【データ解説】体系整理を踏まえた気象警報・解説情報XML電文
記事一覧へ
  1. お天気データサイエンスHOME
  2. 技術情報
  3. 技術ブログ
  4. 【データ解説】気象庁メソ数値予報モデルGPVモデル面データの取得・分布図作成・活用方法について